投稿日: 9月 02, 2025

「きっかけ」

カテゴリー: 開物成務

MWL STORE的 多様性のある「学び」シリーズ、題して:「きっかけ」

工芸と民藝はどちらも人の手で作られる品物ですが、その概念や背景には大きな違いがあります。

工芸とは

  • 実用性と芸術性の両立: 工芸は、日常生活で使われる機能を持つと同時に、美的価値も追求して作られたものを指します。

  • 技術と美しさ: 熟練した職人の高度な技術によって、素材の特性を活かし、装飾的な美しさを加えることが重視されます。

  • 作者の存在: 名のある職人や作家が、個人の技術や感性を表現する場として捉えられることが多いです。

民藝とは

  • 「民衆的工芸」の略: 大正時代に、思想家の柳宗悦(やなぎ むねよし)や陶芸家の河井寬次郎、濱田庄司らによって提唱された「民藝」という造語です。「民衆の工芸」を意味します。

  • 「用の美」の発見: 民藝運動の中心的な思想は、特別な芸術品ではなく、名もなき職人たちが日々の生活のために作った、素朴で飾り気のない日用品の中にこそ、真の美しさ(「用の美」)があるというものです。

  • 無銘性と複数性: 特定の作者の名前が表に出ることは少なく、大量に作られることで多くの民衆の暮らしを支えてきたものが中心です。

  • 地方性・伝統性: その土地の風土や伝統的な技術、素材を用いて作られるため、それぞれの地域に根ざした独自の色や形を持っています。

主な違いのまとめ

項目 工芸 民藝
定義 実用性と美的価値を兼ね備えた工作物 日常生活のために作られた民衆的な工芸品
作者 名のある職人・作家が手掛けることが多い 名もなき職人によって作られることが多い
目的 実用性に加え、美術的な美しさを追求する 日用品としての「用の美」を追求する
生産方法 個々の職人による手作業、または工房での分業 地域全体で受け継がれた技術による生産
価値観 個人の卓越した技術や芸術性、希少性が評価される 簡素さ、健康さ、安価さ、そして共同性が評価される

白洲正子:「骨董」という個人的美意識の体現者

白洲正子は、戦後の荒廃の中で伝統の美について語り、日本人の誇りを守った随筆家として知られています。彼女の美意識は柳宗悦の影響を受けながらも、より個人的で感覚的なものでした。

白洲の美学の特徴:

  • 骨董への愛: 五感による感覚至上の美の世界
  • 直感の美学: 理論より感覚を重視した美意識
  • 無用の美: 実用性を超えた純粋な美の追求
  • 自由な審美眼: 既成の価値観にとらわれない独自の美意識

柳宗悦:「用の美」の提唱者

一方の柳宗悦は民芸運動の父として知られ、1926年に「日本民藝美術館設立趣旨」を発表し、1928年の主著『工藝の道』で「工芸の美は健康の美」「用と美が一体」という思想を確立しました。

柳の美学の特徴:

  • 無名性の美: 名もなき職人の手から生まれた日常の生活道具に見出される美しさ
  • 用の美: 実用性と美しさが一体となった美の概念
  • 健康の美: 自然で作為のない素朴な美しさを重視
  • 仏教美学: 晩年には民芸の本質を仏教思想で解明し、他力による美を説いた

柳宗悦の「民芸」vs 白洲正子の「骨董」

学術研究によると、白洲正子は柳宗悦の「用の美」から出発しながらも、より個人的で感覚的な「骨董」の世界へと向かいました。これは「民芸から骨董へ」という美意識の転換として理解されています。

  • 柳宗悦: 集団的・思想的な美の理論化
  • 白洲正子: 個人的・感覚的な美の実践

白洲正子は時に柳宗悦の民芸論に対して批判的な立場を取ることもありました。彼女は「自らの美意識に従って、歯に衣を着せぬ主張をする」独特の持ち味を持ち、常に辛口でありながらも深い洞察を示していました。

現代への影響

二人の思想は現代の日本文化にも大きな影響を与え続けています。柳宗悦の「用の美」の思想は現代のデザイン論や工芸論の基礎となり、白洲正子の骨董に対する眼は現代の美術品鑑賞や蒐集文化の発展に寄与しています。

共通点:

  • 日本の伝統美への深い愛情
  • 西洋的価値観への批判的視点
  • 美の実践的体現

相違点:

  • 理論vs感覚
  • 普遍性vs個別性
  • 社会性vs個人性

柳宗悦と白洲正子は、それぞれ異なるアプローチで日本の美意識の本質を探求し、現代に至るまで多くの人々に影響を与え続けている、日本美学史における不可欠な存在なのです。

うちで年に数回ある作家さんの展示会にはこれらの視点から、偏ることなく作家さんにお声をおかけさせていただいております。それはもう始まった時からそうでした、「きっかけのきっかけ」は高山の安土草多さんと常滑の急須でした。作家さんのすべてがそうであるように、まずは日本の歴史や工芸の歴史の学びから始まっています。今店頭にある全ての作品の一つ一つには隅々までこれらの思想が息づいております。

ご一緒に勉強してまいりましょう。学びあってこその人間です、どこから、いつからでも始めることはできます。