アガサ・クリスティ原作のミステリードラマ「名探偵ポワロ」
ポワロはもちろんドラマとしての内容は珠玉なものがあります。それに加えていいのは、というか、かなり優れているのはまずファッション(男女とを問わずに、この時代のものつまり100年もの時代の経過、あるいはドラマの制作年からも何十年も経っているにもかかわらず、かなりファッションしています。)こんなドラマはまず日本に見ないし、他の例、コロンボやシャーロックホームズなどの名作においてもそれを見ないのであります。
さらには、内装のセットの素晴らしさである。かなりの予算が注ぎ込まれいる、そして建築、時代考証をちゃんとされた建築や、その内装の美しさはかなり魅力的で、どうしてもこれを見ていると、東京都庭園美術館に思いが行ってしまうのです。あの美しい日本一のアール・デコにです・
そうそう、そして忘れてならないのは、元町からすぐのホテル・ニュー・グランド横濱、これも同年代の建築つまり、あの素晴らしい、内装はアール・デコの様式なのです。だから好きで、いつもカフェの洋食に入り浸るわけです。私がアール・デコにこだわるのはこの辺りの事情が多分にあるのです。
ポワロのアール・デコは誰に教えてもらったわけでもなくて、何度も何度もポワロのシリーズを見ていて、インテリアデザインのスペシャリストの私としては、どうしてもインテリアの細々としたもの、あるいはデザイン、内装装飾とか階段の螺旋とか、ドア、入り口に目が行ってしまっていて、このアール・デコってすごいなって思い始めて調べだすと、出てくるわ出てくるわであったわけで、それでまた見直すと、ドラマの筋書きと共に内装装飾の美しさにニヤついてしまっているわけです。アガサ・クリスティ!ってね。
ポワロとアール・デコの密接な関係
名探偵ポワロシリーズは、1920年代から1930年代のアール・デコ黄金時代を背景としており、この時代の美術様式がドラマ全体の世界観を決定づけています。デビッド・スーシェ主演のITVドラマシリーズ(1989-2013年)では、制作陣が意識的に1930年代中期のスタイルを採用し、ポワロの世界を視覚的に表現しました。
ホワイトヘイブン・マンション(フローリンコート)
ドラマでポワロが住む「ホワイトヘイブン・マンション」は、実際にはロンドンのチャーターハウス・スクエアにあるフローリンコートという建物です。

建築的特徴
- 建設年: 1936年
- 設計者: ガイ・モーガン・アンド・パートナーズ
- 様式: ストリームライン・モダン(アール・デコの発展形)
- 特徴: 印象的な曲線を描くファサード、左右に突き出た翼部分、屋上庭園、地下プール
ポワロのアパートメントの内装
ドラマのセットデザイナーは、ポワロの几帳面で洗練された性格を反映した内装を創り上げました。
素材と色彩
- 磨き上げられたウォルナット材
- 管状スチール家具
- ガラスとクロムの組み合わせ
- 象嵌細工(マルケタリー)
- エナメル塗装面
- 大理石、明るい木材のパーケット床
- 明るい色のカーペット
装飾品とアクセサリー
- 流線型の花瓶と陶器
- スタイリッシュな喫煙・カクテルセット
- 流線型のクロックとラジオ
- ラリック・クリスタル
- アジア風の漆塗りスクリーン
- 新素材プラスチック(ベークライト)
アール・デコの建築的特徴
様式の特色
- 幾何学的装飾: 直線、ジグザグ、円、三角形などの幾何学模様
- 流線型デザイン: スピード感と現代性を表現
- 大胆な色彩対比: 原色による印象的な配色
- 豪華な素材: 大理石、真鍮、ガラスブロックなど
- 垂直性の強調: 高層建築に適した上昇感のあるデザイン
ドラマで使用された実際の建築物
制作チームは、イギリス各地の優れた戦間期建築を撮影に使用しました:
主要ロケ地
- エルサム宮殿 – 円形エントランスホール
- ロンドン大学のセネート・ハウス – 権威的なモダニズム建築
- フーバー・ファクトリー – ロンドン西部大通り沿いのアステカ風建築
- ベクスヒルのデ・ラ・ワー・パビリオン – エーリッヒ・メンデルゾーン設計
- モーカムのミッドランド・ホテル – エリック・ラヴィリアスの壁画復元
1930年代イギリスのモダニズム住宅ブーム
ドラマの背景となった1930年代のイギリスは、住宅建設ブームの時代でした:
時代背景
- 1930-1939年: 400万戸の新築住宅が建設
- 1939年時点: 人口の3分の1が築10年以下の住宅に居住(なんとな!)
- ロンドン地下鉄網の拡張: 郊外開発の促進
- モダン様式の普及: 曲線的な角部、金属製出窓、水平ライン強調 Preservation Artisans
アガサ・クリスティ自身とアール・デコ
興味深いことに、アガサ・クリスティ自身もアール・デコ環境で生活していました。第二次大戦中、ホーランド・パークの自宅が爆撃を受けた後、イソコン・ビルディング(ベルサイズ・パークのモダニズム建築)に住居を移しました。この建物にはバウハウスの建築家ヴァルター・グロピウス、マルセル・ブロイヤー、ラースロー・モホリ=ナギも居住していました。
名探偵ポワロシリーズは、単なる推理ドラマを超えて、1930年代アール・デコ時代の視覚的記録として高い価値を持っています。ポワロの几帳面で洗練された性格は、アール・デコの精密性と豪華さを完璧に体現しており、建築とキャラクターが見事に調和した稀有な作品となっているのです。
参考にした文献 Apollo Magazine。