私が好む、経済学者にヨーゼフ・シュンペーターがいます。アール・デコの時代、18世紀末から19世紀中場までを生きた人です。そして経営学者としてのクレイトン・クリステンセンという二人の「知の巨人」がいます。二人の活動した時代はそれぞれ19世紀と20世紀で、経済・経営に大きな足跡を残している二人と言えます。
今回はそのあたりから、MWL BUSINESS Brand Storyは、現代の画期的に革命を続ける生成AIを結論として紐づけて、解りやすくまとめてみましょう。
はじめに19世紀
経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、経済発展の原動力をイノベーションと捉えたことで知られています。彼の思想は、現代の経済学や経営学に大きな影響を与え続けています。
イノベーションの思想と概念
シュンペーターのイノベーションは、単なる技術革新を指すものではありません。彼は、経済活動における「新結合」こそがイノベーションの本質だと考えた。
彼はイノベーションを以下の5つに分類しました。
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新しい財貨の生産: 新しい製品やサービスの創出。例: スマートフォン
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新しい生産方法の導入: 新しい技術やプロセスの導入。例: 大量生産システム
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新しい販売先の開拓: 新しい市場への参入。例: 新興国市場への進出
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新しい供給源の獲得: 原材料や半製品の新しい供給源を見つけること。例: レアメタルの新しい採掘方法
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新しい組織の実現: 組織の再編や新しいビジネスモデルの創出。例: 独占企業の形成や打破
この「新結合」は、既存の均衡状態を破壊し、新しい均衡を創造するダイナミックなプロセスであり、シュンペーターはこれを「創造的破壊」と呼んだ。
企業家の役割
シュンペーターは、このイノベーションの主体となるのが、リスクを恐れず、新しい挑戦を続ける「企業家(アントレプレナー)」だとしました。彼らは単に既存の需要に応えるだけでなく、自ら新しい需要を創造し、市場に押し付けていく存在。
シュンペーターは、企業家を経済発展の「英雄」と位置づけ、彼らが新しい事業を成功させることで得られる「企業者利潤」こそが、資本主義の活力の源泉だと考えました。この利潤は、競争によってやがて消滅するため、企業家は常に新しいイノベーションを追求し続けなければならない。
影響力
シュンペーターの思想は、経済学に大きな影響を与えた。
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動態的な経済観: 従来の均衡を前提とした経済学に対し、シュンペーターは絶えず変化する経済の動態的な側面を重視した。
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景気循環の解明: 彼のイノベーション論は、好景気と不景気のサイクルである景気循環を説明する有力な理論となった。
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経営学への影響: 彼のイノベーションや企業家に関する思想は、現代の経営戦略やイノベーションマネジメントの分野に大きな影響を与えています。特に、「創造的破壊」という概念は、企業が競争力を維持するために常に変革し続けることの重要性を示すものとして、広く認識されている。
そして20世紀
「イノベーションのジレンマ」とは、優良企業が、正しい経営判断をしているにもかかわらず、新興企業がもたらす新しい技術やビジネスモデルによって、市場での地位を失ってしまう現象を指す。
これは、ハーバード・ビジネス・スクールの教授、クレイトン・クリステンセンが提唱した理論。
概念のポイント
1. 持続的イノベーションと破壊的イノベーション
この理論を理解する上で重要なのが、「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」という2つの概念。
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持続的イノベーション: 既存の製品やサービスを改良し、顧客のニーズに合わせて性能や品質を高めていくことです。大企業は、主要顧客の声を重視するため、このタイプのイノベーションを得意とする。
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破壊的イノベーション: 既存の市場とは異なる、新しい価値基準を持つ製品やサービスを創出することです。多くの場合、最初は性能が低く、低価格で提供されるため、既存の大企業は市場規模が小さく、利益が見込めないとして参入を軽視しがちです。(まさに今の生成AIのことを言います)
2. ジレンマの発生
優良企業は、合理的な経営判断に基づき、収益性の高い既存事業に集中し、主要顧客が求める「持続的イノベーション」にリソースを投資します。その間に、新しい市場を狙った新興企業が、最初は性能が劣る「破壊的イノベーション」を導入します。
しかし、この破壊的イノベーションは、顧客のニーズが満たされていない市場や、新しいタイプの顧客層に受け入れられ、徐々に性能が向上します。やがて、既存の大企業が提供する製品の性能を追い越し、最終的には市場全体を席巻してしまうのです。
この結果、大企業は、「顧客の声をよく聞き、技術を向上させる」という正しい経営判断が、結果的に自社の地位を脅かす事態を招くというジレンマに陥ります。
そして21世紀を生きる我らに訪れている革命
イノベーションのジレンマと生成AIは、「破壊的イノベーション」という共通の概念で深く結びついています。 優良企業が、既存の事業や顧客を重視するあまり、当初は性能が低いと見なされがちな生成AIという新しい技術の価値を見過ごし、結果的に市場での地位を失うリスクに直面するという構図です。
生成AIがもたらす破壊的イノベーション
生成AIは、従来の技術とは異なる新しい価値基準を市場にもたらしました。
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低価格・手軽さ: 高価で専門的なソフトウェアやサービスに代わり、無料または低価格で誰でも簡単にテキストや画像を生成できるようになりました。
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新しい顧客層の開拓: 従来の専門家向けツールとは異なり、プログラミングやデザインの知識がない人でも、アイデアを素早く形にできるようになりました。これにより、新しい市場やニーズが生まれていること。
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性能の急速な向上: 当初は出力の精度が低かったものの、急速な技術進化により、今やビジネスレベルでも通用する質の高いコンテンツを生成できるようになっていること。
既存企業が直面するジレンマ
生成AIの普及は、多くの既存企業、特に「持続的イノベーション」に注力してきた優良企業にジレンマをもたらしている。
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既存事業との衝突: 広告制作、ソフトウェア開発、コンテンツ制作など、既存の収益源となる事業に生成AIを導入することで、自社のビジネスモデルを破壊する恐れがあります。例えば、自社のデザイナーを雇う代わりに、生成AIでコンテンツを作成する企業が増えれば、デザイン会社は収益を失う可能性があります。
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顧客の声に耳を傾けすぎる: 既存の主要顧客は、より高性能な製品やサービスの改良(持続的イノベーション)を求めがちです。しかし、これらの顧客は、最初は性能が低い生成AIのような新技術に価値を見出しにくいことがあります。企業が顧客の意見を重視しすぎると、破壊的イノベーションの兆候を見逃すことになります。
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合理的な経営判断の罠: 収益性の低い新規事業にリソースを投資することは、短期的な経営効率を重視する上では非合理的に見えます。この合理的な判断が、結果的に破壊的イノベーションを起こす新興企業に市場の主導権を奪われる原因となる。
具体的な例
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ソフトウェア業界: 従来のSaaS(サービスとしてのソフトウェア)企業は、複雑なUIや多くの機能を備えた製品を提供してきました。しかし、生成AIは自然言語での指示だけでタスクを完了できるため、従来のソフトウェアの価値を低下させる可能性があります。
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メディア・コンテンツ業界: 報道機関は、高品質な記事を作成するために多くのジャーナリストを雇用しています。しかし、生成AIが情報を集約し、記事を自動生成するサービスが登場すれば、既存のメディアのビジネスモデルは脅かされます。
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クリエイティブ業界: デザイン会社や映像制作会社は、時間とコストをかけて制作を行ってきました。生成AIは、アイデアの試作やコンテンツの大量生産を可能にし、従来のクリエイターの役割を再定義する可能性を示唆している。
結論として
経済学の古典ともいえるシュンペーターの思想が、なぜ今、これほどまでに再び注目されているのでしょうか。それは、現代社会が抱える問題や状況が、シュンペーターが分析した「創造的破壊」のダイナミズムと驚くほど一致しているからです。
1. 「創造的破壊」のスピードと規模の拡大
シュンペーターが提唱した「創造的破壊」は、新しいイノベーションが既存の産業や社会構造を破壊し、新しい均衡を創造するプロセスです。現代社会では、IT技術、特にAIや生成AIの進化により、この破壊のスピードと規模が過去に例を見ないほど加速しています。
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デジタル・トランスフォーメーション (DX): デジタル技術の活用により、ビジネスモデル全体を根本から変革しようとする動きは、まさに「創造的破壊」そのものです。
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生成AI: 前述したように、生成AIはクリエイティブな仕事や知識労働を根底から変え、新しい市場を生み出すと同時に、既存のビジネスを淘汰する可能性があります。この破壊的なインパクトを理解するには、シュンペーターの理論が最適なフレームワークを提供します。
2. 「イノベーションのジレンマ」の現実化
クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」も、シュンペーターの思想を現代に適用したものです。多くの大企業が、従来の成功体験や顧客を重視するあまり、新しい破壊的イノベーションに乗り遅れ、衰退していく現象が頻繁に見られるようになりました。シュンペーターの理論は、このジレンマの根本原因を、経済の動態的なプロセスとして説明する手助けとなります。
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コダックとデジタルカメラ: フィルムカメラのトップ企業であったコダックが、デジタルカメラという破壊的技術に乗り遅れた事例は、創造的破壊の典型的な例です。一方ジャパンの富士フイルムは化粧品から医薬品再生医療という「予防」「診断」「治療」という多岐にわたるイノベーションで今最も尊敬できる企業と言えるぐらいにイノベーションを生きている。ここがとても日本らしい、このような見えない取り組みをしている日本企業は他にも多い、深く世の中間に入り込んで必要にして不可欠なイノベーションの解に到達しつつあるとも言える。中興の祖としての社長の存在が際立っていたと言える。社長なのですよ全て、伊藤忠も同じ。
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GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)や新興テック企業: これらの企業は、既存の市場の常識を打ち破る「破壊的イノベーション」を次々と生み出し、伝統的な産業を再構築した。
3. 企業家の重要性の再認識
シュンペーターは、イノベーションの担い手となる「企業家(アントレプレナー)」の役割を重視した。彼らは、単なる経営者や発明家ではなく、新しい「新結合」を実現し、リスクを負って市場に変化をもたらす存在です。
現代では、テクノロジーの進歩により、個人や小規模なスタートアップでも、グローバルな市場にインパクトを与えることが可能になり。この「起業家精神」の重要性が叫ばれる現代において、シュンペーターが描いた企業家像は、多くのビジネスパーソンにとっての指針となっているのは間違いのないことだろうと思う。
4. 資本主義の未来への問い
シュンペーターは、資本主義が最終的には停滞し、社会主義へと移行していく可能性を示唆しました。彼の理論は、資本主義の健全な発展には、絶え間ないイノベーションと創造的破壊が不可欠であることを示唆しています。
グローバル化や格差の拡大、気候変動といった現代的な課題に直面する中で、資本主義のあり方自体が問い直されています。このような状況において、経済のダイナミズムを説明し、未来を洞察するためのツールとして、シュンペーターの思想は再び脚光を浴びている。
シュンペーターの理論は、単なる過去の経済学説ではなく、変化の激しい現代社会を理解し、未来を切り開くための羅針盤として、今なおその普遍的な価値を発揮していると言えるでしょう。どうか学んでください。
