秋刀魚の味

小津監督のさんまの味であります。
デジタルリマスターで再発行されたものを何度も見ています。
当時ドイツの「アグファ」というフィルムメーカーの赤の発色が綺麗ということで主流のコダックでなくアグファを使ったという逸話が残る。その通り「小津の赤」として有名になる。

小津さんの素晴らしさは監督が監督らしさを発揮していて、画面に出てくる映像の隅から隅までまでディレクター(監督)の意思が入っているところにある。女優の美しさから、配置され使われた小物まで、そして女優が着た着物までである。今ならスタイリストがいて、それぞれ専門化された分掌の下、映画が構成されるのが辣腕監督といえど、常だろう。小津さんは違った、おそらく監督から全てをこなしただろう、だからこそ独特の彼の素晴らしい映画になったと言える。

デジタルリマスターという技術で、多分当時映画館で観れた「アグファ」の赤が再生されているように思えてならないのです。デジタルの技術というのはまー素晴らしいのでありまする。

こちらの美しい女優さんがどなたかは定かではありませんが、この着物の美しさ、帯の模様デザインの優れ度は傑出している。若い年齢でしか着れない色・柄という厳然としたルールが着物には存在する。その短い年齢で着る着物、日本女性が美しく映えるのは断然着物だね。
着物はエコロジカルなアイテムである、よい品ほど、親から子へ、子から孫へと伝わり、その家を象徴するものになる。日本人の昔からの知恵の象徴だ。

主役で名女優の座へ駆け上がったきっかけとなった。「岩下志麻」さん。美しいというよりも可憐でキリッとした可愛さ、着物にも反映されている。多分当時としては高い範疇の着物ではなく、普通の着物であるよう見える。でもその中から選んでいる、意思があるように思えてならないのだ。

この後ろの火鉢に見える、モダンなやかんはどうだろう、色・形といい、岩下志麻の横に置くものとして選んだモダンだとしか思えない。こんな美しい映画にはお目にかかれない。まー素晴らしいね。古いだけじゃ駄目なんだ、時代に応じた新しさを取り込んでいかないとね。古いものそのまま作っていいものは本当に限られた僅かな世界だと思う。