先日の戸田竹芸店さんのカゴのお話に関連した、周辺エリアの深堀話をします。場所は兵庫県神戸市の六甲山を越えた裏手の話。山田錦です。
阪神間モダニズムの中核を成した、豊かな灘五郷の醸造家たち。
灘五郷とは今津郷、西宮郷、魚崎郷、御影郷、西郷、の神戸阪神に渡る酒造地であり、近代清酒醸造の技術を確立したエリアで日本酒のメッカと呼ばれています。神戸阪神の豊かな文化の背景には全国に酒を売り、豊かになった醸造家たちが文化的に与えた影響が大きいと言われます。そんな優れた酒が多い灘五郷の酒の中でも私は「剣菱」に特別な感情があります、記憶に残っているのはその端正なラベルでありました、酒のラベルというのはコテコテの漢字のものが多い、とくにその時代、今でこそ多様性がありますが、私が育った当時の日本酒のラベル、酒を飲まない年齢なのに、そのラベルデザインの記憶だけがやけに残っていました、なんかカッコイイなぁです。剣菱酒造はなんと500年の歴史がある酒です、古いスコッチウィスキーの蒸留所ですら1700年代後期だから、これはすごい、司馬遼太郎さんの小説「竜馬がゆく」その中にも酒のブランド名であるはずの「剣菱」が出てくる場面があります、小説を読んでいて、見逃さずに気づいた、父の晩酌からの記憶です、あっ、父が飲んでる酒だと、父の口癖は「酒は剣菱」でした。500年の歴史はとてつもなく長い、だから、あろうことか広辞苑で剣菱と引くと、他の意味とともに酒の名前として出てくる、これは他にないエピソードでもあります。
剣菱はもともとの出は「丹醸」の酒、つまり伊丹で醸造した酒で、その丹醸という言葉だけで高品質を意味していた時代があり、その名残りで丹醸という言葉が今も残っています。
「山田錦」神戸の北の背景で作られる最も酒に適した米と言われています、山田錦種の酒米の全国生産の8割を兵庫、神戸、播州エリアが占めています、なぜ「山田錦」なのか、それは今も全国酒品評会において安定的に上位入賞するのが、山田錦を使った酒であるからです。なぜ山田錦かの二番目の理由は六甲山系から流れ落ちる伏流水にあると言われています。灘の酒が美味い理由の2、わずか、500メートル四方にだけ湧く「宮水」。語源は西宮の水、やはりこれも六甲山系から降りた水が御影石などの花崗岩層や海に近い西宮の貝殻層で濾過され、
微妙な塩分と混じり、リンの含有量が多く、鉄分が少ない、酒に合う高度の硬水が誕生していて、奇跡の水と呼ばれる、これも山田錦と同様に宮水使用の酒が品評会において高い成績を収めたものが背景となっています。「山田錦」「宮水」は灘五郷における美味い酒の一つの構成要素となっていったわけです。
そして丹波杜氏の存在、「灘のお酒はどなたがつくる、おらが自慢の丹波杜氏」とも言われ、伝統製法の背景には丹波の酒造り伝承の高い杜氏の技術がありました。
「剣菱」はそのキレから男の酒と呼ばれています。
阪神間モダニズムをつくる日本酒醸造、日本酒は文化であります。
「播州米に宮水、丹波杜氏に六甲颪(ろっこうおろし)、男酒の灘の生一本」
PHOTO:剣菱酒造株式会社より引用