投稿日: 9月 18, 2025

【彬子女王のモダン建築めぐり】

カテゴリー: Liberal Arts

見逃してはダメな記事を引用にて紹介する MWL BUSINESS Story 今回は私の最も好きな美術館の幾つかあるうちの一つ東京都庭園美術館のこのカーサ ブルータス10月号の優れた記事を紹介したい、取り上げられたグッドな視点を要約しました。是非行ってみて下さい東京都庭園美術館に、もともとお邸でしたから規模の大きなものではございませんが、邸の面積はお庭含めて大きな施設となっていて、せっかく首都圏に住んでいるのなら、見ておきたい建築で、日本の矜持を示す、日本ならではのもので、よく空襲で残ったものだと思います。いや、ピンポイントで空襲から外されていたのだと思います。京都や奈良と同じで米国政府は詳細に日本の歴史遺産を把握していたのだと思います。もしロシアその他が北方四島以降南下していれば、そういうものが全てどうなっていたかは、、、。その分、神戸や横浜、東京都内は徹底的に何度も爆撃されている、広島・長崎は言うに及ばず。色んな視点で歴史を振り返る時だろう、この東アジアに緊張がずっと続いている時に、同じことがいつ起こっても不思議ではない時代になっている。

雑誌「Casa BRUTUS」の連載「彬子女王のモダン建築めぐり」の第2回として、東京都庭園美術館が取り上げられています。この記事の要点は以下の通りです。

  • テーマ: 皇室にゆかりのある、明治から昭和初期にかけて建てられたモダン建築を、美術やデザインに造詣の深い彬子女王が巡る新連載。

  • 東京都庭園美術館の概要:

    • 元々は皇族・朝香宮家の自邸として建てられた建物。

    • 宮内省内匠寮が設計、フランス人デザイナーのアンリ・ラパンが内装、ルネ・ラリックが工芸を担当するなど、日仏の技術と知恵が融合したアール・デコ様式の建築

  • 記事の注目ポイント:

    • 香水塔: アンリ・ラパンが手がけた香水塔が紹介されています。この香水塔は、かつて破損していたが修復を経て復元されたもので、旧朝香宮邸の次室に位置し、来客を客間へと誘う役割を担っています。

    • 彬子女王ならではの視点: 彬子女王が、三笠宮殿下から聞いた「焼香水」という宮殿の香り付けの文化についての話から、香水塔への関心が深まった経緯が語られており、皇族ならではの視点から建築にまつわるエピソードが綴られています。

    • 内装・装飾: ラリックによるガラス製の正面扉や、職人技が光る壁面、源氏香の模様がデザインされたラジエーターカバーなど、アール・デコ様式の特徴的な装飾や細部にわたる工夫が紹介されています。

以上、まとめの元記事はカーサブルータスの10月号、買わないとね、さすがです。

アンリ・ラパンの香水塔 見る価値

生きるということは学びの継続をすると言うことが許される貴重な日々、知らないことを知っている人に教えてもらう日々を。

投稿日: 9月 17, 2025

現代版イノベーションのジレンマを生きている私達

カテゴリー: Liberal Arts

私が好む、経済学者にヨーゼフ・シュンペーターがいます。アール・デコの時代、18世紀末から19世紀中場までを生きた人です。そして経営学者としてのクレイトン・クリステンセンという二人の「知の巨人」がいます。二人の活動した時代はそれぞれ19世紀と20世紀で、経済・経営に大きな足跡を残している二人と言えます。

今回はそのあたりから、MWL BUSINESS Brand Storyは、現代の画期的に革命を続ける生成AIを結論として紐づけて、解りやすくまとめてみましょう。

はじめに19世紀

経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、経済発展の原動力をイノベーションと捉えたことで知られています。彼の思想は、現代の経済学や経営学に大きな影響を与え続けています。

イノベーションの思想と概念

シュンペーターのイノベーションは、単なる技術革新を指すものではありません。彼は、経済活動における「新結合」こそがイノベーションの本質だと考えた。

彼はイノベーションを以下の5つに分類しました。

  1. 新しい財貨の生産: 新しい製品やサービスの創出。例: スマートフォン

  2. 新しい生産方法の導入: 新しい技術やプロセスの導入。例: 大量生産システム

  3. 新しい販売先の開拓: 新しい市場への参入。例: 新興国市場への進出

  4. 新しい供給源の獲得: 原材料や半製品の新しい供給源を見つけること。例: レアメタルの新しい採掘方法

  5. 新しい組織の実現: 組織の再編や新しいビジネスモデルの創出。例: 独占企業の形成や打破

この「新結合」は、既存の均衡状態を破壊し、新しい均衡を創造するダイナミックなプロセスであり、シュンペーターはこれを「創造的破壊」と呼んだ。

企業家の役割

シュンペーターは、このイノベーションの主体となるのが、リスクを恐れず、新しい挑戦を続ける「企業家(アントレプレナー)」だとしました。彼らは単に既存の需要に応えるだけでなく、自ら新しい需要を創造し、市場に押し付けていく存在。

シュンペーターは、企業家を経済発展の「英雄」と位置づけ、彼らが新しい事業を成功させることで得られる「企業者利潤」こそが、資本主義の活力の源泉だと考えました。この利潤は、競争によってやがて消滅するため、企業家は常に新しいイノベーションを追求し続けなければならない。

影響力

シュンペーターの思想は、経済学に大きな影響を与えた。

  • 動態的な経済観: 従来の均衡を前提とした経済学に対し、シュンペーターは絶えず変化する経済の動態的な側面を重視した。

  • 景気循環の解明: 彼のイノベーション論は、好景気と不景気のサイクルである景気循環を説明する有力な理論となった。

  • 経営学への影響: 彼のイノベーションや企業家に関する思想は、現代の経営戦略やイノベーションマネジメントの分野に大きな影響を与えています。特に、「創造的破壊」という概念は、企業が競争力を維持するために常に変革し続けることの重要性を示すものとして、広く認識されている。

そして20世紀

「イノベーションのジレンマ」とは、優良企業が、正しい経営判断をしているにもかかわらず、新興企業がもたらす新しい技術やビジネスモデルによって、市場での地位を失ってしまう現象を指す。

これは、ハーバード・ビジネス・スクールの教授、クレイトン・クリステンセンが提唱した理論。

概念のポイント

1. 持続的イノベーションと破壊的イノベーション

この理論を理解する上で重要なのが、「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」という2つの概念。

  • 持続的イノベーション: 既存の製品やサービスを改良し、顧客のニーズに合わせて性能や品質を高めていくことです。大企業は、主要顧客の声を重視するため、このタイプのイノベーションを得意とする。

  • 破壊的イノベーション: 既存の市場とは異なる、新しい価値基準を持つ製品やサービスを創出することです。多くの場合、最初は性能が低く、低価格で提供されるため、既存の大企業は市場規模が小さく、利益が見込めないとして参入を軽視しがちです。(まさに今の生成AIのことを言います)

2. ジレンマの発生

優良企業は、合理的な経営判断に基づき、収益性の高い既存事業に集中し、主要顧客が求める「持続的イノベーション」にリソースを投資します。その間に、新しい市場を狙った新興企業が、最初は性能が劣る「破壊的イノベーション」を導入します。

しかし、この破壊的イノベーションは、顧客のニーズが満たされていない市場や、新しいタイプの顧客層に受け入れられ、徐々に性能が向上します。やがて、既存の大企業が提供する製品の性能を追い越し、最終的には市場全体を席巻してしまうのです。

この結果、大企業は、「顧客の声をよく聞き、技術を向上させる」という正しい経営判断が、結果的に自社の地位を脅かす事態を招くというジレンマに陥ります。

そして21世紀を生きる我らに訪れている革命

イノベーションのジレンマと生成AIは、「破壊的イノベーション」という共通の概念で深く結びついています。 優良企業が、既存の事業や顧客を重視するあまり、当初は性能が低いと見なされがちな生成AIという新しい技術の価値を見過ごし、結果的に市場での地位を失うリスクに直面するという構図です。

生成AIがもたらす破壊的イノベーション

生成AIは、従来の技術とは異なる新しい価値基準を市場にもたらしました。

  • 低価格・手軽さ: 高価で専門的なソフトウェアやサービスに代わり、無料または低価格で誰でも簡単にテキストや画像を生成できるようになりました。

  • 新しい顧客層の開拓: 従来の専門家向けツールとは異なり、プログラミングやデザインの知識がない人でも、アイデアを素早く形にできるようになりました。これにより、新しい市場やニーズが生まれていること。

  • 性能の急速な向上: 当初は出力の精度が低かったものの、急速な技術進化により、今やビジネスレベルでも通用する質の高いコンテンツを生成できるようになっていること。

既存企業が直面するジレンマ

生成AIの普及は、多くの既存企業、特に「持続的イノベーション」に注力してきた優良企業にジレンマをもたらしている。

  1. 既存事業との衝突: 広告制作、ソフトウェア開発、コンテンツ制作など、既存の収益源となる事業に生成AIを導入することで、自社のビジネスモデルを破壊する恐れがあります。例えば、自社のデザイナーを雇う代わりに、生成AIでコンテンツを作成する企業が増えれば、デザイン会社は収益を失う可能性があります。

  2. 顧客の声に耳を傾けすぎる: 既存の主要顧客は、より高性能な製品やサービスの改良(持続的イノベーション)を求めがちです。しかし、これらの顧客は、最初は性能が低い生成AIのような新技術に価値を見出しにくいことがあります。企業が顧客の意見を重視しすぎると、破壊的イノベーションの兆候を見逃すことになります。

  3. 合理的な経営判断の罠: 収益性の低い新規事業にリソースを投資することは、短期的な経営効率を重視する上では非合理的に見えます。この合理的な判断が、結果的に破壊的イノベーションを起こす新興企業に市場の主導権を奪われる原因となる。

具体的な例

  • ソフトウェア業界: 従来のSaaS(サービスとしてのソフトウェア)企業は、複雑なUIや多くの機能を備えた製品を提供してきました。しかし、生成AIは自然言語での指示だけでタスクを完了できるため、従来のソフトウェアの価値を低下させる可能性があります。

  • メディア・コンテンツ業界: 報道機関は、高品質な記事を作成するために多くのジャーナリストを雇用しています。しかし、生成AIが情報を集約し、記事を自動生成するサービスが登場すれば、既存のメディアのビジネスモデルは脅かされます。

  • クリエイティブ業界: デザイン会社や映像制作会社は、時間とコストをかけて制作を行ってきました。生成AIは、アイデアの試作やコンテンツの大量生産を可能にし、従来のクリエイターの役割を再定義する可能性を示唆している。

結論として

経済学の古典ともいえるシュンペーターの思想が、なぜ今、これほどまでに再び注目されているのでしょうか。それは、現代社会が抱える問題や状況が、シュンペーターが分析した「創造的破壊」のダイナミズムと驚くほど一致しているからです。

1. 「創造的破壊」のスピードと規模の拡大

シュンペーターが提唱した「創造的破壊」は、新しいイノベーションが既存の産業や社会構造を破壊し、新しい均衡を創造するプロセスです。現代社会では、IT技術、特にAIや生成AIの進化により、この破壊のスピードと規模が過去に例を見ないほど加速しています。

  • デジタル・トランスフォーメーション (DX): デジタル技術の活用により、ビジネスモデル全体を根本から変革しようとする動きは、まさに「創造的破壊」そのものです。

  • 生成AI: 前述したように、生成AIはクリエイティブな仕事や知識労働を根底から変え、新しい市場を生み出すと同時に、既存のビジネスを淘汰する可能性があります。この破壊的なインパクトを理解するには、シュンペーターの理論が最適なフレームワークを提供します。

2. 「イノベーションのジレンマ」の現実化

クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」も、シュンペーターの思想を現代に適用したものです。多くの大企業が、従来の成功体験や顧客を重視するあまり、新しい破壊的イノベーションに乗り遅れ、衰退していく現象が頻繁に見られるようになりました。シュンペーターの理論は、このジレンマの根本原因を、経済の動態的なプロセスとして説明する手助けとなります。

  • コダックとデジタルカメラ: フィルムカメラのトップ企業であったコダックが、デジタルカメラという破壊的技術に乗り遅れた事例は、創造的破壊の典型的な例です。一方ジャパンの富士フイルムは化粧品から医薬品再生医療という「予防」「診断」「治療」という多岐にわたるイノベーションで今最も尊敬できる企業と言えるぐらいにイノベーションを生きている。ここがとても日本らしい、このような見えない取り組みをしている日本企業は他にも多い、深く世の中間に入り込んで必要にして不可欠なイノベーションの解に到達しつつあるとも言える。中興の祖としての社長の存在が際立っていたと言える。社長なのですよ全て、伊藤忠も同じ。

  • GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)や新興テック企業: これらの企業は、既存の市場の常識を打ち破る「破壊的イノベーション」を次々と生み出し、伝統的な産業を再構築した。

3. 企業家の重要性の再認識

シュンペーターは、イノベーションの担い手となる「企業家(アントレプレナー)」の役割を重視した。彼らは、単なる経営者や発明家ではなく、新しい「新結合」を実現し、リスクを負って市場に変化をもたらす存在です。

現代では、テクノロジーの進歩により、個人や小規模なスタートアップでも、グローバルな市場にインパクトを与えることが可能になり。この「起業家精神」の重要性が叫ばれる現代において、シュンペーターが描いた企業家像は、多くのビジネスパーソンにとっての指針となっているのは間違いのないことだろうと思う。

4. 資本主義の未来への問い

シュンペーターは、資本主義が最終的には停滞し、社会主義へと移行していく可能性を示唆しました。彼の理論は、資本主義の健全な発展には、絶え間ないイノベーションと創造的破壊が不可欠であることを示唆しています。

グローバル化や格差の拡大気候変動といった現代的な課題に直面する中で、資本主義のあり方自体が問い直されています。このような状況において、経済のダイナミズムを説明し、未来を洞察するためのツールとして、シュンペーターの思想は再び脚光を浴びている。

シュンペーターの理論は、単なる過去の経済学説ではなく、変化の激しい現代社会を理解し、未来を切り開くための羅針盤として、今なおその普遍的な価値を発揮していると言えるでしょう。どうか学んでください。

投稿日: 9月 15, 2025

.urukust さま POP=UP は本日が最終日です。

カテゴリー: Liberal Arts

都市生活者が日常に持つバッグ。その機能性の高さと洒落たデザイン、ディテール、カラー、素材使いなど、バランスの高さで他にはないバッグとして、定評があります.urukustさまのバッグと財布の色々見比べて見れる展示会は本日までです。お見逃しなくお願い申し上げます。日本🇯🇵の手作りをリスペクト続ける。MWL STORE

 
 

もうかれこれ10年ご一緒に過ごさせていただいています。ありがとう存じます。これまでも、これからも…

投稿日: 9月 11, 2025

三菱一号館

カテゴリー: Liberal Arts

センスのいい美術館の東西双璧、三菱と大阪中之島 それが時を同じくしてアール・デコっていう、それもファッションが主役という。これは建築家もデザイナーも陶芸家も見ていなきゃならないのさ。あぁ10月からですからね、もう少しです。

 
 

投稿日: 9月 10, 2025

アール・デコの展覧会を二つ

カテゴリー: Liberal Arts

アール・デコの基本的な理解を深く追いかけているMWL Business Story でありますが。

現在日本を代表するようなセンスの良い美術館2館から、時を同じくしてアール・デコが、この秋に開催されます。

東京駅と大阪の中之島です、大阪もまもなく静かになると思います。京都の展示会とともに、万博終われば行きます。

注目すべきはファッションに視点を置いているところです。特に三菱に期待を置いています。ファッションに身を置いてウィメンズデザインをしている人は必見です。

ま、これだけじゃなくて、総合的にアール・デコを知ることによって、これらが腹落ちしてくるでしょう。知っている人にアドバイスをもらうことです。

アール・デコの時代の服を理解するには、やはりポワロは絶好です。美しい映像で、美しい人が、アール・デコの代表的な服を着こなしています。是非追いかけてみてください。動いて見えるから参考になりますよデザインのね。

 

これは中之島 この車はBMWですが、どうもやっぱりラゴンダが、なんかアール・デコの時代っぽいと思う私です。アストンマーチンのルーツです。
 これは三菱、多分混むと思う、レベルが高いようにみていて思うので

投稿日: 9月 08, 2025

柳宗理を再考す @ 金沢 編 MWL Business Story

カテゴリー: Liberal Arts

どうも、金沢に行くようになってそのたんびに行く場所が金沢美術工芸大学であった。今回はその関係を紐解いてみよう。MWL Business Story 柳宗理を再考す編のまとめ

横浜市にもこういう思想を求めたい、大箱ばかりでなくて、知的水準の高いもの

まず初めに:日本の代表的工業デザイナーである柳宗理と金沢美術工芸大学は、深い繋がりがあります。

連携の経緯

柳宗理は、金沢美術工芸大学で約50年間にわたり教鞭を執りました。この長い期間にわたる関わりが縁となり、2012年3月には柳工業デザイン研究会から、彼の作品や模型、設計図などのデザイン関係資料約7,000点が金沢美術工芸大学に寄託されました。この寄託を機に、2014年3月には大学の附置施設として「柳宗理記念デザイン研究所」が設立されました。

柳宗理記念デザイン研究所

柳宗理記念デザイン研究所は、柳宗理のデザイン活動や思想を後世に伝えるための拠点となっています。ここでは、以下の活動が行われています。

  • 展示: 柳宗理のデザインした製品や資料が常設展示されており、来館者は実際に見て触れることができます。

  • 教育・研究: 寄託された資料を活用し、学生へのデザイン教育や研究活動が行われています。

  • 啓蒙・普及: 企画展や公開講座を通じて、柳宗理のデザインの美しさや思想を一般の人々に伝える活動をしています。

この研究所は、「手で考える」という金沢美術工芸大学のデザイン教育理念にも大きな影響を与えています。また、金沢市は「柳宗理デザインミュージアム(仮称)」の整備も進めており、さらに柳宗理のデザインを広く発信していく計画であるようですよ。

本論:

戦後日本の産業デザイン史において、柳宗理(1915-2011)と金沢美術工芸大学の関係は極めて重要な意義を持つ。両者の約50年にわたる協働は、日本のデザイン教育の礎を築き、多くの優秀なデザイナーを輩出することで、戦後復興から高度経済成長期における日本の産業発展に大きく寄与した。

1. 歴史的背景と関係の始まり

1.1 金沢美術工芸大学の産業美術学科創設

1955年(昭和30年)は日本デザイン史における画期的な年であった。この年、金沢美術工芸大学が美術工芸専門学校から短期大学を経て四年制大学へと発展し、同時に産業美術学科が新設された。

戦後日本が国を挙げて産業化へと舵を切る中、金沢市は繊維産業と陶磁器産業という輸出の花形産業を擁していた。地域産業の発展に貢献するデザイナー育成という産業界の要請に応える形で、現在のデザインにあたる「産業美術」を掲げた学科再編が行われたのである NPO法人建築思考プラットホーム

1.2 柳宗理の招聘と教育への参画

産業美術学科の新設にあたって講師として招聘されたのが、当時デザイナーとして第一線で活躍していた柳宗理と大智浩(1908-1974)であった。1956年に嘱託教授として就任した柳宗理は、この時から2005年の退職まで約50年という長期にわたって同大学で教鞭を執った 金沢美術工芸大学

2. 柳宗理のデザイン教育哲学

2.1 「手で考える」デザイン手法

柳宗理の教育の核心にあったのは「手で考える」という独自のデザイン手法であった。これは単なる理論的な考察ではなく、実際に手を動かして模型を作りながらデザインを練り上げていく実践的なアプローチである。「デザインの構想は、デザインする行為によって触発される」という柳の言葉が示すように、思考と制作を一体化させた教育理念であった Casa Brutus

この「手で考える」理念は現在でも金沢美術工芸大学デザイン科の教育方針として受け継がれており、柳宗理の教育思想が現代まで脈々と継承されていることを示している。

2.2 「用の美」の実践

父である柳宗悦の民芸運動から受け継いだ「用の美(ようのび)」の思想も、柳宗理の教育に深く根ざしていた。これは「実用性の中に美しさがある」という理念であり、機能性と美しさを両立させたデザインの追求を意味した。この思想は学生たちに、単なる装飾的なデザインではなく、生活に根ざした真の美を創造することの重要性を教えた。

3. 教育成果と影響の拡散

3.1 多くの優秀なデザイナーの輩出

柳宗理の指導の下から多くの優秀な卒業生が巣立ち、日本の高度経済成長以降のデザイン界を支えていった。この先見性と社会に貢献する姿勢は職員や学生を鼓舞し、金沢美術工芸大学の声価をより一層高める結果となった 金沢美術工芸大学

3.2 酒井和平氏に見る継承の具体例

柳宗理の直接の指導を受けた代表的な人物の一人が、後に金沢美術工芸大学名誉教授となった酒井和平氏である。酒井氏は開設より12年間同大学の専任教員として教鞭をとり、現在のインダストリアルデザイン教育の礎を築いた。彼による講演「金沢美術工芸大学・工業デザインの誕生と柳宗理先生」は、柳宗理の教育理念の継承を物語る重要な証言となっている YouTube

4. 現代における取り組みの継承と発展

4.1 柳宗理記念デザイン研究所の設立

2014年3月、金沢市尾張町に「柳宗理記念デザイン研究所」が開設された。これは、2012年3月に一般財団法人柳工業デザイン研究会から約7,000点のデザイン関係資料が同大学に寄託されたことを契機として設立された大学附置施設である 柳宗理記念デザイン研究所

この研究所は単なる展示施設ではなく、教育・研究・収蔵・普及・発信・交流機能を一体的に備えた総合的な施設として機能している。特に注目すべきは、展示作品にキャプションや説明文を一切用意せず、来館者が「無心にモノと向き合って自らの眼で素直に美を感じ取る」ことを重視している点である。

4.2 新たなデザインミュージアム構想

2022年には「金沢美大柳宗理デザインミュージアム(仮称)基本構想」が策定され、さらなる発展が計画されている。この構想では、柳宗理のデザイン資料の展示機能だけでなく、教育・研究・収蔵・普及・発信・交流機能を一体的に備えた新たな施設の整備が予定されている 金沢市

4.3 継続的な教育活動

現在も柳宗理記念デザイン研究所では、オンライン講演会や特別展示を通じて柳宗理のデザイン思想と教育理念の普及に努めている。これらの活動を通じて、新たな世代のデザイナーや研究者に柳宗理の理念が継承され続けている。

5. 現代的意義と今後の展望

5.1 グローバル化時代におけるローカルアイデンティティ

柳宗理と金沢美術工芸大学の取り組みは、グローバル化が進む現代において、地域の文化的アイデンティティを維持しながら国際的に通用するデザイナーを育成するモデルケースとして重要な意義を持つ。金沢の伝統工芸と近代デザインの融合という視点は、現代の「クラフト創造都市」金沢の基盤となっている。

5.2 「手で考える」理念の現代的価值

デジタル技術が発達した現代においても、柳宗理の「手で考える」理念は失われることない価値を持ち続けている。実際に手を動かし、素材と直接対話しながらデザインを生み出すプロセスは、AI時代におけるヒューマンセンタードデザインの重要な基盤となっている。

結論

柳宗理と金沢美術工芸大学の約50年にわたる協働は、戦後日本のデザイン教育史において特筆すべき成果を残した。「手で考える」デザイン手法と「用の美」の理念に基づく教育は、多くの優秀なデザイナーを輩出し、日本の産業発展に大きく寄与した。

現在の柳宗理記念デザイン研究所の活動や新たなミュージアム構想は、この貴重な教育遺産を現代に継承し、さらなる発展を図る重要な取り組みである。グローバル化とデジタル化が進む現代においても、柳宗理の教育理念は色あせることなく、新たな世代のデザイナー育成に重要な示唆を与え続けている。

この歴史的な取り組みは、単なる過去の遺産ではなく、未来のデザイン教育のあり方を考える上で極めて重要な参照点として位置づけられるべきであろう。


参考文献・本文中のリンクより

金沢へ行くと必ず立ち寄っています。素敵ですよ、いつ行っても不思議なくらい人いないし、みんなデザインに興味がないのかな。それが不思議でならない、工芸とデザインと美術ね。今年も行きました。学びのレイヤーにね。
宗理と言えば白磁の美しさ