上野リチ

私は図案を制作するに当って、

自然の花鳥を見てもその形のみに止らずして、その香り、日光、風の動き等の感じをも取入れて想像し、創作いたします。例えばすみれを描く場合に、すみれの香水を嗅ぐ事によって、すみれの花束を見つつ描くよりもよりよい暗示を得ます。花にしても、盛りの最中よりも、歯とか、散り際とか、散ったあと等の方がより深い暗示を与えます。単なる写実ではなく幻想し、創作するということが重要な事です。

「欧州図案家の生活」『眞美』9巻2号、買美會、1932年6月

上野リチ、左。右は旦那さん、夫の上野伊三郎、ホフマン派の建築家、ウィーン工房で出会い、意気投合、やがて結婚。リチさんは京都で晩年を過ごし生涯を終えている。とにかく二人ともお洒落である、アウトプットがいい。この当時にこんな格好ができるのだから。伊三郎はブルーノ・タウトによる「日本美の再発見」の鍵を握る人物でもあった。宮大工の家に生まれた造形派の生粋の京都人。伊三郎はリチの最大最高の理解者であり支援者であった。